東京高等裁判所 平成5年(ネ)2633号 判決 1994年10月26日
東京都渋谷区恵比寿二丁目三六番一三号
控訴人
株式会社パワーステーション
右代表者代表取締役
小林茂
右訴訟代理人弁護士
藤本博光
右輔佐人弁理士
奥山尚男
東京都新宿区新宿六丁目二八番一号
被控訴人
日清フーディアム株式会社
右代表者代表取締役
新井雄一郎
右訴訟代理人弁護士
高野裕士
右輔佐人弁理士
角田嘉宏
同
高石郷
神奈川県川崎市宮前区土橋三丁目三番地二
脱退被告
日清食品レストランシステム株式会社
右代表者代表取締役
新井雄一郎
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、ホットドッグ、ハンバーガー、サンドイッチ等(以下「本件食料品」という。)及びその包装紙、包装箱に原判決添付別紙第一目録(以下「別紙第一目録」という。)記載の標章を付して本件食料品、包装紙、包装箱を譲渡し、引き渡し、展示し又は頒布してはならない。
3 被控訴人は、東京都新宿区新宿六丁目二八番一号所在の日清食品株式会社(以下「日清食品」という。)東京本社ビル地階において経営するロッキン・レストラン(以下「本件レストラン」という。)又はその看板に表示した名称のうち、別紙第一目録記載の名称を表示してはならない。
4 被控訴人は、別紙第一目録記載の標章を付した本件食料品の包装紙、包装箱、入口表示看板、宣伝広告物を廃棄せよ。
5 被控訴人は、控訴人に対し、金二四七万円及びこれに対する平成三年六月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
7 仮執行宣言
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
当事者の主張は、以下に訂正、附加するほかは、原判決第二当事者の主張のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決請求の原因3末尾(七頁六行目末尾)に、行を改めて、以下のとおり加える。
「また、本件の場合、売り場の形態、配置等を含めて映画館や一般の劇場やホール、野球場やスタジアムの場合と全く同じであって、チケットの購入資格が定められているわけではなく、すべての人がこれを購入でき、チケットを購入した人はすべて、その入場を許されている。したがって、チケット購入を条件とはするが、すべての人に入場は開放されいるわけである。ということは、いわゆる不特定多数の人の入場と、不特定多数の人による本件食料品の購入が行われていることとなり、特定の会員のみのための本件食料品の販売ではない。とすれば、本件食料品が一般市場で流通に供されていることとなるのであるから、まさに商標法二条三項にいる「商品」に該当する。
もし、本件のように、映画館、劇場等における本件のような商標を表示したパッケージに入れた食料品の販売が商標法上の商品でないとすれば、映画館や劇場において販売されるすべての物品に付された標章が商標権侵害を構成しないこととなる。
仮に本件食料品が本件レストラン内の調理場で調理されたとしても、調理された料理をそのまま容器に入れて出すのではなく、一旦、本件商標が付されている個別のパッケージに入れて、これを一定の売り場に運び、ここに積み上げ又は並べて同パッケージと共に販売をしているのである。
被控訴人は、本件食料品が本件レストラン内の調理場で調理されて出されていることを強調するが、本件食料品が本件レストラン内の調理場で調理されていようが、本件レストラン外で調理されようが、商品性の判断に際して、その調理場所のいかんは何ら問題とならない。
本件レストランと同様に、チケットを購入するだけで不特定多数の人が集まる劇場やスタジアム等で、パック詰めで商標をつけて販売されるものが、劇場やスタジアムの調理場で調理されているから商品に当たらないとすれば、これにどのような商標をつけて販売されても、商標権者は、何ら対抗できないこととなり、不合理である。
よって、本件食料品が商品に当たることは明らかである。」
二 原判決請求の原因5末尾(八頁四行目末尾)に、行を改めて、以下のとおり加える。
「また、仮に、本件食料品の商品該当性が否定されるとしても、被控訴人が本件食料品を原判決添付別紙第二目録記載の各標章(以下「被控訴人標章」という。)を付したパッケージに入れて本件レストランにおいて販売する行為は、平成三年法律六五号による改正後の商標法の役務の提供に該当し、被控訴人の被控訴人標章の使用は、改正後の商標法三七条一号の指定商品に類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に該当するので、同改正法施行の日から六か月を経過した平成四年一〇月一日以降は、本件商標権の侵害とみなされる。
そして、被控訴人の被控訴人標章の使用は、不正競争の目的によるものである。すなわち、控訴人は、脱退被告(日清食品レストランシステム株式会社)に対し、昭和六三年四月二八日及び平成二年一月二五日到着の各内容証明郵便をもって、控訴人が本件商標権の権利者であり、被控訴人側が同権利を侵害している旨通告している。したがって、被控訴人側が被控訴人標章の使用は本件商標権の侵害になることを知りながら、その使用を継続しているものであるから、明らかに不正競争の目的を有しているものである。」
三 原判決請求の原因12中(一三頁八行目)の「不正競争防止法一条一項二号」を「不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正後のもの、以下同じ。)二条一項一号、三条」と改める。
四 原判決請求の原因に対する被控訴人の認否及び主張3末尾(一七頁三行目末尾)に、行を改めて、以下のとおり加える。
「控訴人は、被控訴人が本件レストランでハンバーガー等の料理を提供することが、劇場やスタジアム等における物品の販売と同一であるかの議論を行っている。
しかし、控訴人は、劇場やスタジアム等で提供される「物」を特定しないであいまいな議論を行っており、失当である。
劇場やスタジアム等で提供される食料品については、二種類の物が考えられる。ビスケット、ドーナツ、缶コーヒー等、商品として転々流通してきた物をその場で販売するような場合が考えられるが、このような物はもとより商標法上の商品というべきである。しかし、その劇場やスタジアム内の食堂において調理されて料理が提供される場合は、その料理は商標法上の商品に当たらないことは明らかである。
被控訴人の本件レストラン内に設けられた調理場で、パン、米、ソーセージその他の購入した食材を使用して調理した料理を来場客に提供するのであって、その食料品はまさに料理以外の何ものでもない。
また、商標は元来複数の出所からの商品の存在が予定される場において自己の商品を他から識別させるためのものである。本件レストラン内は複数の出所からの商品の存在が予定される場ではなく、また、本件レストランは料理提供者自身が支配する場屋内であって、その場で即時に飲食に消費するように本件食料品が提供されているから、流通性はなく、本件食料品は商品に該当しないことは明らかである。」
五 原判決請求の原因に対する被控訴人の認否及び主張4末尾(一七頁四行目末尾)に、行を改めて、次のとおり加える。
「被控訴人は本件レストランにおいて料理の提供をしているものであるが、控訴人主張の商品としての加工食料品の販売と、料理の提供という役務とは類似しない。
なお、仮に、本件レストランにおける本件食料品の販売が、本件商標権の指定商品と類似する役務の提供に該当するものと解する余地があり、かつ、被控訴人標章が本件商標に類似すると認める余地があるとしても、被控訴人らにおいて、商標法の改正法施行の日から六か月を経過した平成四年一〇月一日以前から現在まで、不正競争の目的でなく、被控訴人標章を継続して本件レストランにおける本件食料品の販売に当たり使用していたから、被控訴人は、同改正法附則三条一項により、被控訴人標章の使用権を有するから、本件商標権の侵害を構成しない。
その使用が不正競争の目的によるものでないことは、訴外会社が本件レストランを音楽レストラン(ロッキン・レストラン)として発足させるに当たり、被控訴人標章を使用したのは、これと同名のアメリカの有名なレコーディングスタジオまたはイギリスのロックグループの名にちなんだもので、控訴人の本件商標と全く関係なく採用されたものであることからもらかである。」
第三 証拠関係
原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、原判決の判断を正当とするものであり、その理由は、以下に訂正、附加、削除するほかは、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決理由一3(一)(4)末尾(二七頁二行目末尾)に、行を改めて、次のとおり加え、同(5)全文(同頁三行目から六行目まで)を削る。
「控訴人は、本件レストランにおいては、本件食料品を持ち帰りすることは特に禁じられていない旨主張し、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第三二号証によれば、控訴人のサポートセンターのアシスタントマネージャー岩木耕一が、平成六年二月一五日及び一七日に本件レストランに調査に赴いた際、本件食料品の一部を手提げ紙袋にいれて持ち帰った事実があることが認められる。
しかし、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証によれば、本件レストランでは、飲食物の持ち帰り用に手提げ紙袋を用意している事実はなく、前記岩木の強い要望により、たまたま当日、本件レストランの従業員が私用のために持っていたものを渡したにすぎないことが認められるので、前記岩木が持ち帰った事実があることをもって、本件食料品の持ち帰りが、本件レストランにおいて一般に行われているものと認めることはできない。」
2 原判決理由一3(二)末尾(二八頁一行目末尾)に、行を改めて、次のとおり加える。
「控訴人は、本件レストランは不特定多数の人の入場が許され、不特定多数の人による本件食料品の購入が行われているから、本件食料品が一般市場で流通に供されていることとなり、本件食料品は商標法二条三項にいう「商品」に該当する旨主張する。
しかし、前認定の事実によれば、本件レストランは、生演奏されるロックのコンサートを鑑賞するために来場する者が同時に飲食することができるようにした場所であり、被控訴人は、本件レストランにおいて、音楽演奏の興行というサービスと料理の提供というサービスを同時に行っていることが明らかである。そして、本件食料品は、SDSフロアにおいて提供されるコース料理と同じく、来場者の飲食のために本件レストランが提供する物であり、B1フロア、B2フロアでコンサートを鑑賞しつつ飲食を楽しむことができるように、透明なプラスチック製の容器又は紙箱に入れられているものと認められ、このことからすると、これらのパッケージは飲食サービスにおける食器類と同じと評価すべきであり、これに付されている被控訴人標章は、音楽演奏の興行とともに飲食サービスを提供する本件レストランのサービスを表示するものとしてのみ来場者に認識されるものと認められる。本件全証拠によってもこれを覆すに足りる資料は見当たらない。
すなわち、被控訴人標章を本件食料品の入ったパッケージに付する行為は、被控訴人が提供するサービス(役務)を表示するものとして行われているものであり、商標法上の商品を表示するものとして行われているものではないというべきである。
したがって、本件食料品が商標法上の商品に当たることを前提に、被控訴人標章が商品に付されているとする控訴人の主張は採用できない。」
3 原判決理由一4の本文全文(二八頁二行目の「よって」から二九頁七行目末尾まで)を次のとおり改める。
「(一) 本件商標は、原判決添付の商標公報写し該当欄記載のとおりの字体のカタカナ文字で「パワーステーション」と横書きされたものであるのに対し、被控訴人標章は、アルファベット文字で「POWER STATION」と横書きされたものを要部として含む標章であることが認められる。
本件商標と被控訴人標章の要部である「POWER STATION」とは、称呼及び観念において同一であり、ただ外観がカタカナ文字によるかアルファベット文字によるかの違いがあるだけであり、被控訴人標章に「POWER STATION」以外の記載が含まれるとしても、両者が類似していることは明らかである。
(二) 控訴人は、本件食料品の商品該当性が否定されるとしても、被控訴人が本件食料品を被控訴人標章を付したパッケージに入れて本件レストランにおいて販売する行為は、平成三年法律六五号による改正後の商標法の役務の提供に該当し、被控訴人の被控訴人標章の使用は、改正後の商標法三七条一号の指定商品に類似する役務についての登録商標に類似する商標の使用に該当するので、同改正法施行の日から六か月を経過した平成四年一〇月一日以降は、本件商標権の侵害とみなされる旨主張する。
そこで、まず、被控訴人主張の、平成三年法律第六五号附則三条一項の使用権について判断する。
被控訴人らが平成四年一〇月一日以前から被控訴人標章を本件レストランにおいて本件食料品の販売に当たり使用していたことは、当事者間に争いがない。
証人春藤政司の証言により真正に成立したものと認められる乙第三一号証、三二号証及び同証言によれば、訴外会社が本件レストランを音楽レストラン(ロッキン・レストラン)として発足させるに当たり、被控訴人標章を使用したのは、これと同名のアメリカの有名なレコーディングスタジオ又はイギリスのロックグループの名にちなんだもので、控訴人の商標と全く関係なく採用されたものであることが認められ、この事実と、後記判示(原判決理由二)から認められるとおり、脱退被告が本件食料品を被控訴人標章を付したパッケージに入れて本件レストランにおいて販売する行為を開始した昭和六三年三月当時から現在に至るまで、控訴人営業表示が被控訴人の営業活動の場である東京都内において、一般に広く知られていなかったとの事実によれば、被控訴人標章の使用が、不正競争の目的によるもの、すなわち、公序良俗、信義衡平に反する手段によって他人と営業上の競争をする意図に基づいたもの、ということはできない。なお、成立に争いのない甲第三三号証、三四号証の各一、二によれば、控訴人は、日清食品株式会社に対し、昭和六三年四月二六日付け及び平成二年一月二三日到達の各書面により、被控訴人標章の使用は控訴人の商標権の侵害に当たるとの警告書を送付していることが認められるが、右事情のもとにおいては、警告書の送付を受けたことにより直ちに不正競争の目的が生じるものとは解せられないから、控訴人の主張は採用することができない。
そうすると、控訴人の改正後の商標法三七条一号に関する前記主張は、被控訴人標章の使用が本件商標の指定商品に類似する役務についての本件商標に類似する商標の使用に該当するかどうかの点はさておき、いずれにせよ、これを採用することができない。
(三) よって、控訴人の商標権に基づく請求は理由がない。」
二 以上によれば、控訴人の各請求をいずれも理由がないものとして棄却した原判決の判断は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)